先月末に念願のカヤックを購入。 カヤックとカヌーの違いは、簡単に言うと次のようになる。 カヤックはクローズデッキ (真中に穴が開いていて入るタイプ) の船でダブルブレード (両端に水をかく板がある) のパドルを用いて漕ぐタイプを言い、対して狭い意味でのカヌーは、 オープンデッキ (公園のボートのようにふたが無い) の船で、シングルブレードの (片側にしか水をかく板が無い) パドルを用いて漕ぐタイプを言う。 ただし、一般的には両タイプともカヌーと呼ばれてしまっている。 僕が買ったのはカヤックタイプ。 しかも旅が容易にできる折りたたみ式 (ファルトボートまたはフォールディングカヤックと言う) だ。 これは、アルミポールを継ぎ足して骨組みを作り、それをすっぽりとビニル布で覆って船となる。 ペニャペニャと柔らかいが、12 kG程度の軽量。 電車でもバスでもタクシーでも、 さらには飛行機でも宅配便でも、行きたい所まで持っていける。 とても便利なカヌーだ。
なぜ、30歳近くになってからカヌーデビュー? 幾人かの冒険話を読んでみると、 彼ら自転車野郎や山男も、そのうちにカヌーや岩登りに興味を持つらしい。 僕も自転車や山歩きで人力での旅行を楽しんできたので、自然とカヌーという乗り物に興味を持つようになっていた。 川に流れにまかせて、ゆらゆらとカナダやアラスカのマッケンジー川やユーコン川など何千キロも川を下る。 そのためにはまず船に乗れるようにならなければならない。
ほぼ毎週、湖にカヤックを浮かべ、漕ぐ練習をしてきた。 本や雑誌を参考にしての独学だが、 なるほど体験して見るとその理屈がわかる。 ただ湖では、漕がなければ前に進まないし、 また同じ所に戻って来なければならない。 旅とは程遠い。 そろそろ川に出る時期がやって来た。
梅雨も明けた。 水量もある。 最も身近な阿武隈川をデビューの地と決めた。 東北本線の車窓から見える穏やかな川の流れ。 いつも気になっていたんだ。
9:30に寮を出て、水郡線川東駅に駐車。 阿武隈川の堤防でカヤックを組み立てる。 組み立ては慣れたものだ。 10:45にはいざ川の流れへ。 河川工事のおじさんが声をかけてきた。 この下流で行っている阿武隈川・平成の大改修の自慢をしていた。 数年前に台風で水が上がり、 大変な被害が出たことは事実だ。 しかし、川岸を全てコンクリートで覆い、蛇行を無くし、 単なる放水路に変えることが解決策なのだろうか?
水はドブ臭く、洗剤の泡がよどみにたまり、両岸の木々にはゴミが引っかかっている。 これぞ汚い川の代表だ。 天気が良いことと川を初めて下っている興奮が、それらを紛らわしてくれる。 これまで波も無く流れていた川から、音が聞こえてきた。 瀬だ。 瀬のグレードとして、 波立つ程度の1級からとてもじゃないが船は通ることの出来ない6級までランクがある。 一般的カヌーで航行できるのは4級まで。 ファルトボートでは船底の布が傷つく恐れがあるので、 3級でも危ないとされている。 最初の瀬はさらさらと流れる0.5級の瀬だった。 それでも教科書通り、バウ (船の先端) を波へ直角に向けて、バランスを取ってヒヤヒヤ通る。
だんだんワクワクしてきた。 少し大きめの瀬、とは言っても1級程度だが、 手前でいったん岸に上がり、進路を確認して、それから下る。 川岸を良く見てみると、 数センチの小さな魚がウヨウヨいる。 良かった。 川は生きている。
安積永盛の手前で、複雑な流れになった。 巨大な岩盤の川底が段になり、岩もゴロゴロ。 上陸して偵察する間もなく流れに負けて、あれよあれよ。 50 cmくらいの落ち込みにはまって、岩に乗り上げた。 ヤバイ!! 幸いすぐに抜けることが出来たが、心臓がバクバク高鳴った。 すぐ下流の安積永盛駅前の土手に上陸。
まだ昼。 当初の目的地はここだったが、まだまだ時間がある。 かなり疲れた。 でも天気は良い。 何せもっと乗りたい。 昼食を買って、本宮を目指して1:00再出発。 のんびりとした流れが続いた。 いくつか橋の下をくぐる。 学生やお母さんたちが手を振ってくれる。 良い気分だ。 旅してるぜ!!
郡山を過ぎてしばらくした頃、これまで穏やかだった川が急にざわめき出した。 何だ? 水しぶきが見える。 ただ事ではない。 どうやら小さな島で流れが二手に分かれている。 左手が本流で、もの凄い音を立てている。 対して右の伏流は、浅くて岩がゴツゴツしているが、音は無い。 上陸すれば良かったが、その余裕すらなく、右の流れへ。 あっという間に岩でカヌーの底を擦り、新品のカヤックに穴が開いた。 あーー。 と思うよりも身の安全が優先。 川に飛び込み、船を持ち上げ島へ上陸。 見れば完璧な穴だった。 応急処置でテープを貼り、バンドエイド?で補強する。 防水タイプを持ってきてよかった。 トホホ。 ここは小和滝であることが、小さく地図に書かれていた。 見れば見るほど無茶な流れだ。 小さな島伝いに滝をポーテージ (カヌーを担いで回避すること) し、第一の難関を抜けた。 そしてすぐにまた瀬。 浅いので、ライニングダウン (カヌーを引いて歩いて回避すること) で第二の関門突破。 そして次は深そうに見えたので漕いで乗り越えようとした。 ところが、波の力に負けて岩に思い切り船底を擦り、 見事に水がボコボコ入ってきた。 これはマズイ。 すでに3:30。 とてもじゃないが補修してから本宮までたどり着くとは思えない。 今日はここで終えることにした。
ボロボロになった愛艇をたたみ、道路へ上がる。 運良くタクシーの運転手が昼寝をしていた。
ほろ苦い処女航行だったが、ワクワクした。 次から「滝」や「瀬」と地図に地名が載っていたら注意することにしよう。
約24.5 kmの航行。
先々週、小和滝でリタイヤしたので、その続きを下ることにした。 来週の夏期休暇には、北上川でカヌーキャンプデビューをする予定。 練習を怠ってはいけない。 雑誌やカタログを見てみると、ファルトボートの船底は弱いので、 アルミポールと岩が擦れると簡単に穴が開いてしまうのは常識のように書かれていた。 そのため、その部分に補強テープを貼るらしい事がわかった。 それならテープは売るほどある。 市販の補強テープの上に、粘着力が強くて評判のバンドエイド? 布タイプのテープを船底に貼ることにした。
7:45に寮を出て、日和田駅に駐車する。 タクシーで小和滝まで。 前回は梅雨明けだったためか、今日は水量が少なく感じる。
10:00頃に漕ぎ出す。 今回はもう一つの改善がある。 地図を常に見えるところに置くことにした。 「滝」や「瀬」の文字にも注意だが、現在位置の把握は、道路標識など無い川では最も大切なこと。 地形と方位磁針から現在位置を正確に把握していないと、何かあったときに大変だ。
さっそく瀬が続く。 ルートが読めないので、ライニングダウンが続く。 岩だらけで全く漕げない。 ほとんど引っ張って歩いている。 一時間経ってもほとんど進んでいない。 釣り人は数人。 河川工事の人の方が多い。 橋が少なく、道路とも離れていて、手を振ってくれる見物人も居ない。 川は孤独なものだな。 山を歩いて人に会わないことは余程のルートでないと無い。 自転車であれば常に自動車は行き交っている。 しかし川には誰も居ない。 その昔は重要な交通の手段だった大河川ですら、ただの排水の場。 川で遊ぶのは危険と教えられた子供たちは、きっと大人になっても川を見向きもしないんだろうな。
相変わらず臭くて汚いと感じる水を浴び、時には腰まで浸かってカヤックを引っ張り、徐々に下流へ流れていく。 本宮に着いたのは昼だった。 補強テープの布タイプは粘着剤の相性が悪いのか、ベロベロと剥がれていた。 やはり通常の肌色タイプが良いのか? 行く手には3級の瀬も立ちはだかった。 ルートは見えるが落差が1 m近くあり、 倒木が落ち込みに刺さっているようにも見える。 あきらめてポーテージ。
コツがつかめてきた。 それは瀬を華麗に漕ぎ下るというものではない。 どこの水が流れ、どこが深い流れで、 船底を擦らずに通せるか。 どの音の時が危ない瀬なのか。 その時に立ち止まって偵察をすることの大切さ。 自分の実力とカヤックの特性を前提に、乗り越えられる瀬と無理な瀬。 疲れないポーテージの仕方、 ライニングダウンのルートの取り方。 たった2回の川旅で、多くのことが分かってきた。 誰に習ったわけでもないが、 自分が自然から学んだことだ。 これは忘れることが無い学習方法だ。
二本松に入る頃には腕が上がらなくなってきた。 この先、川は国道から離れ、鉄道からも離れる。 帰る手段がなくなる前に、ここで切り上げよう。 高田橋の下に上陸。 タクシーを呼び出し、 二本松の駅からJRで車をとめてある日和田まで戻る。 約21.5 km下った。
カヤックも体もドブ臭い。 でも満足。 楽しい、体験だった。 来週の北上川が、ますます楽しみになってきた。