1990年夏 みちのくひとり旅 - 27泊28日 1900 km

その3: 津軽から三陸へ8月9日 (木) 〜 8月15日 (水)

8月9日 (木)

本来の予定であれば今日ここ弘前に着くはずだったので、のんびりと観光することにする。 弘前は旧津軽藩の城下町。 天守閣や城門などが往時のまま残る貴重な弘前城祉。 数多くの寺社が立ち並び、 歴史的には青森の中心地であった。 残念ながら終わってしまったばかりだが、毎年8月上旬には弘前ねぷた祭りが行われる。 津軽地方であれば、どこでもねぷた・ねぶたと言うのはあったらしい。 そのねぷたの元祖と呼ばれるものが、 弘前のそれで、ここには歴史はある。 戦火に焼かれだだっ広い道路ができた青森では大きいねぶたが通れるのに対し、 城下町として戦火を逃れた弘前の道路は狭く、小さなねぷたしか通れない。 そのために、 何となく青森のほうが有名になってしまっている。 歴史あるが故の皮肉と、市民はぼやいている。 その他にも武家屋敷や五重塔があったりと、観光地には事欠かない。 昨日の疲れをゆっくりとることができた。

(写真1: 弘前城) (写真2: ねぷた村にて) (写真3: 最勝院)

8月4日 (土)

北へ北へ。 特にどこを観光することも無く、一気に秋田市街へ。 秋田への道を急いだ理由は、他でもない。 東北三大祭の竿灯祭りを見るためだ。 秋田市街地にあるユースホステルに連泊して、2夜連続して祭りを楽しむことにした。

8月10日 (金)

この旅で初めて天気が崩れた。 どんよりした雲の中、山の中へと進んでいく。 今日の目的地は十和田湖。 なだらかに道は登り、ついにシトシト雨。 気分は乗らない。 しかし、走らなければ今日の宿には到着しない。

大きく、なだらかな十和田湖の外輪山。 国道102号線の滝ノ沢峠 (標高698 m) までの50 km近くが、ずっと登りだった。 眼下に広がるのは、雲の中の十和田湖。 カルデラへの下りは急だ。 一気に標高差300 mを下り、湖水と同じ高さに。 あとは平坦の道。 休屋という観光拠点にあるユースホステルに宿泊。
十和田湖のシンボル乙女の像が立つ御前浜から、霧がかった十和田湖遊覧船に乗る。 幸い雨は止んだが、 標高400 mの高原の湖では、少し薄ら寒い。

(写真4: 乙女の像) (写真5: 十和田湖遊覧船)

8月11日 (土)

十和田湖に突き出した二つの半島である中山半島と御蔵半島を越さなければ、子の口に着かない。 約200 m標高を上げる。 バイクのお兄さんたちから、「頑張れ!」 の掛け声。 必死の笑顔にピースで返答する。

ようやくたどり着いた子の口から、十和田湖からの唯一である川・奥入瀬川が流れ出す。 この子の口から石ヶ戸までの約8.8 kmの探勝路をハイキングする。 川を流れる水量が、年間を通してほぼ一定であるため、 岩の苔が自然な美を作り出している。 本流にかかる滝は銚子大滝のみであるが、 切り立った両岸の崖から注ぎ込むわずかな水の流れは、幾筋もの滝となって、静かに流れ込んでいる。 時には穏やかに、時には白波を上げて、水は流れる。 ふと岩の上に目をやると、 何とニホンカモシカがじっとこちらを見ているではないか。 観光客は多いけれど、そんな自然の残るハイキングだった。

石ヶ戸からバスで子の口に戻り、今度は自転車で渓流沿いに下る。 いくつか橋で渓流を渡り、 左右にせり上がった渓谷をぬうように、あっという間に自転車は走り抜けた。 後は太平洋に向かって川沿いに下るのみ。
十和田市を通り抜け、下田町にある川要農場内のユースホステルにチェックイン。 農場体験型のユースホステルで、 ジャム作りや牛の乳絞りなどが体験できるそうだ。 僕は大学で農場実習をしているので、あえて参加はしなかったけれど。

(写真6: 奥入瀬渓流) (写真7 ニホンカモシカ)

8月12日 (日)

いよいよ本格的にこの旅も後半に入る。 今日から太平洋に出て、南下するのだ。 天候は回復した。 空気が乾き、さわやかだ。

八戸は工業地帯と化しているので、市街地には入らず、海岸線沿いに走って蕪島へ。 ここはウミネコの繁殖地として天然記念物に指定されている。 居るわ居るわ。 島は陸続きになっている岬のような所なので、 近づいて行ける。 島を見てみると真っ白になっている。 それはウミネコとその糞だった。 市街地に近い繁殖地は非常に珍しいという。 糞をかけられる前に退散。

三陸海岸を目指して、海岸線を南下。 しばらくは穏やかな種差海岸が続く。 この一帯は海岸植物の宝庫だ。 時々県道が海岸線から離れるので、最も海に近い名もない道路を走る。
種市に入る。 と同時にここは岩手県。 5つ目の県だ。 あっさりと今日の宿の欧鳴館旅館に到着してしまったので、海岸で昼寝。 心地よい太陽に照らされ、体は真っ黒に日焼けされていく。

(写真8: 蕪島のウミネコ)

8月13日 (月)

少し走ると、国道45号線は海岸を離れる。 中野海岸や侍浜海岸と呼ばれる断崖地帯となり、道路が海岸線を通っていない。 緩やかな丘陵を越えて、久慈へ。 ここから国道を少しの間離れ、景勝地である小袖海岸沿いに走る。 奇岩が織り成す美しい磯。 またこの一帯は北限の海女の地とのこと。 オニヤンマが飛び交っている。 こんなに多くのオニヤンマは見たことが無い。 国道を離れると一気に自然が広がる。 豊かな大地が広がる。 鼻歌が自然と出てくる。

小さな峠を越え、野田へ。 村から少し離れた玉川地区にある元小学校の校舎を利用したユースホステルに泊る。 でも夕方までまだ時間がある。 15 kmほど山に入った日形井に、 アジア民族造形館がある。 この建物は、旧南部藩の地域に特徴的な曲屋を利用している。 L字型に曲がった家は、人と馬とが共に暮らすことが出来る。 そんな歴史ある民家が、アジアの民族という単位を考えさせる展示物で溢れていた。

(写真9: 小袖海岸) (写真10: 南部曲屋)

8月14日 (火)

いよいよ三陸海岸の縦走に入る。 陸中海岸国立公園に指定されている断崖絶壁の海岸線だ。 普代から黒崎まで、絶望的な急登が始まった。 一気に200 m標高が上がった。 真夏の太陽の下、きつい。

北山崎と呼ばれる、断崖絶壁と奇岩。 一度海岸線まで道路が下ったかと思っても、海岸線に長く道路は続かず、 高い所にある国道までまた登ることになる。 鵜ノ巣断崖と呼ばれる絶壁。 目がくらむ高さだ。 その後も登ったり下ったり、 登ったり下ったりを繰り返す。 あまりに海岸線が厳しいため、離れた箇所を国道が走る。 リアス式海岸とはこういうものだ。

田老の町へ。 当初は宿泊を田老と考えていたが、国民宿舎は予約で満杯だった。 手頃な民宿もなさそうだったので、 一気に宮古まで走ることにした。 もうひと漕ぎだ。 北三陸の中心地、宮古にたどり着いた時には大分時間が経っていた。 もう限界だ。 明日はゆっくり休もう。

(写真11: 北山崎) (写真12: 鵜ノ巣断崖)

8月15日 (水)

宮古の近くに、日本三大鍾乳洞と言われる龍泉洞がある。 近いといっても、片道60 kmある。 とても自転車で日帰りできる距離ではない。 JR岩泉線で近くまで行くことはできる。 しかしその岩泉線は一日数本しか走っていないため、乗換駅の茂市で数時間待つことになる。 よし。 ヒッチハイクを試してみよう。 旅している間に知り合った人たちは、結構ヒッチハイクを楽しんでいた。 チャリダーの僕だってやってみて良いだろう。

茂市まではJR山田線で。 そして龍泉洞へ向う国道340号線の入り口で、ヒッチハイクを開始する。 習ったとおり左手の親指を立てて、笑顔で運転手に訴えかける。 数台目に早くも止まってくれた。 龍泉洞までと伝えると、 途中までしか行かないと言う。 そんな所で降ろされたらますます大変なことになると言われ、それなら、 とその方々の職場のスクーターを貸してくれると言う。 え? 耳を疑った。 見ず知らずの人にスクーター貸してくれる? 言うが早いかUターンし、早速貸してくれた。 3輪車タイプのスクーター。 では45 km先の龍泉洞目指してGo!! スクーターに乗るのは初めてなので、時速30 km程度でゆっくりと走る。 自転車では辛そうな急坂は、 やはりスクーターもヒーヒー唸る。 でも僕自身は疲れない。 2時間もかからずに到着。 龍泉洞は駅から2 km以上離れているので、歩く必要も無く済み、この意味でも助かった。

さてそこまでして来た龍泉洞。 世界一とも言われる地底湖の透明度。 巨大な鍾乳洞。 照明がされているが、 その光が一層幻想的な世界を作り出していた。 行きに来た道を忠実に戻り、新里村の茂市へ。 スクーターのお礼を言いたかったが、貸してくれた人達は留守だった。 代りに、そこに居た人にたくさんお礼を言っておいた。

茂市からの列車の待ち時間も1時間以上ある。 よし、ついでだ。 ヒッチハイク第2弾。 宮古への道は国道106号線なので車通りは多く、しばらくの笑顔でまた乗せてもらうことが出来た。 相模ナンバーのご夫妻。 観光で来ているようだ。 19歳で自転車ひとり旅の途中だと言うと、羨ましがられた。 いつか車を持つようになったら、 誰かに恩返しをしてあげよう。

思ったより早く戻ってこれたので、浄土ヶ浜へ向かう。 奇怪な岩が絶景をなし、波静かな入り江では水と戯れる人々。 ここから観光船に乗り周回する。 船を追うように飛び交うカモメにパンをやったり、奇岩たちを眺めたりして、 三陸海岸を締めくくった。

(写真13: 龍泉洞入場券) (写真14: 借りたスクーター) (写真15: 浄土ヶ浜)

ここまでの走行距離: 計 1120.5 km
今回の走行距離: 計 391.0 km

  • 8/9: 13.3 km (弘前市街)
  • 8/10: 71.4 km (弘前 ⇒ 十和田湖)
  • 8/11: 67.7 km (十和田湖 ⇒ 下田)
  • 8/12: 52.4 km (下田 ⇒ 種市)
  • 8/13: 83.6 km (種市 ⇒ 野田)
  • 8/14: 95.4 km (野田 ⇒ 宮古)
  • 8/15: 7.2 km (宮古周辺) とスクーターで龍泉洞往復
(地図16: ここまでのルート概略3)

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