1990年夏 みちのくひとり旅 - 27泊28日 1900 km

その4: 平泉と杜の都 8月16日 (木) 〜 8月20日 (月)

8月16日 (木)

お盆を過ぎた東北は既に涼しい。 それは今日の天気がすぐれないからかもしれない。 今にも雨が落ちてきそうな曇天の中、北上山地横断国道106号線を西へ。 最初の計画では宮古から盛岡までの区間を輪行しようと考えていた。 しかし、昨日ゆっくり休んだことと、 何よりも走ったほうが達成感があることが分かってきていたため、標高750 mの区境峠越えに踏みきった。

昨日ヒッチハイクした茂市を過ぎ、徐々に標高を上げる。 JR山田線と並行しているので、 線路を右に見たり左に見たりしながら進む。 ダラダラと標高は上がり、特に何を観光するわけでもなく、 70 kmほど走った所が区界峠。

トンネルの先は、盛岡方面に向かって、短い距離で一気に標高を下げる。 盛岡市街地には入らずに、 北上川左岸 (下流に向かって左側の岸。 北上川は南に流れているため東岸) を南下する。
花巻市に入ると、宮沢賢治が身近になってくる。 記念館や詩碑など。 賢治がイギリス海岸と名付けた河岸に行く。 ここがイギリスに似ているのか、それとも昔は似ていたのか、イギリスに行ったことのない僕には、よく分からない。
この日は市内の民宿わらべに宿泊。

(写真1: 国道106号線中間点)

8月17日 (金)

岩手県を南北に貫く東北第一の大河北上川に沿って、岩手県の主要な町が連なる。 北上市の民族資料館は、桜の名所展勝地の隣にある。 水沢市の高野長英記念館も見学。
そして雨の中、平泉へ。 久しぶりに松尾芭蕉の奥の細道と交錯した。 ついにとても楽しみにしていた金色堂と対面した。 覆堂の中にあることを知らなかったので、その覆堂を見た時は、新しくて不思議に思った。 しかし中に一歩足を踏み入れると、 そこには眩いばかりの金色堂があった。 想像よりは小さかったが、絢爛豪華な金ピカのお堂は、とても印象に残った。 鎌倉時代から金色堂を守りつづけてきた旧覆堂は、別の位置に移されたが、こちらも重要文化財として保護されている。

五月雨の 降り残してや 光堂 (芭蕉)
聞きもせず たばしね山の 桜ばな 吉野の外に かかるべしとは (西行法師)

(写真2: 中尊寺 金色堂の覆堂) (写真3: 中尊寺 能楽堂)

本日の宿は、毛越寺境内にあるユースホステル。 宿泊者はこの由緒ある寺の拝観料が無料だ。 藤原基衡によって荒廃していた寺院が復興されたこの毛越寺は、最盛期には中尊寺をしのぐほどの規模と、 華麗さであったらしい。 大泉が池のある浄土庭園は、国の特別史跡、特別名勝に二重指定されている。

夏草や 兵どもが 夢の跡 (芭蕉)

(写真4: 毛越寺 本堂) (写真5: 毛越寺 浄土庭園)

8月18日 (土)

早朝、まだ観光客がいない浄土庭園を歩く。 朝日がちょうど射しこんできた。 数日ぶりの好天だ。
陸羽街道を南下して、6つ目の県である宮城県に入る。 途中観光することも無く、日本三景の一つである松島を目指す。 本日の宿は、奥松島と呼ばれる地域のユースホステル。

奥松島は松島の奥に位置し、宮戸島の嵯峨渓を中心に、荒々しい太平洋の波を受けて男性的な景観が広がるとのこと。 観光地と化した松島よりもよっぽど自然で良い所だと聞いていた。 実際訪れてみても、奇岩があったり、 砂浜があったりと、変化に富んだ美しい海岸線だった。 久しぶりの好天で、夕日をゆっくりと浴びた。

(写真6 奥松島) (写真7: ホタテ)

8月19日 (日)

松島観光。 まずは松島タワーから全体を見下ろす。 静かな湾に、緑を頂いた大小の島々が浮かんでいるのが見える。 松島は、その景色だけでなく、伊達正宗が再建したシンボルの五大堂や、 その菩提寺である国宝・瑞巌寺、県の重要文化財・観瀾亭など、古くから愛でられている観光地だけあって、 歴史的建造物も多い。 松島の海そのものは、遠浅のためか水が淀み、芭蕉ほど感激は出来なかった。

塩釜の塩釜神社へ。 ここは、古くから東北鎮護・陸奥国一之宮として信仰を集めていたところ。 高台にあり、遠く海のほうには松島の島々を眺めることができた。

多賀城跡へ。 この地に奈良・平安時代の陸奥国・国府が置かれ、一帯は東北地方の政治・軍事・文化の中心地だったとのこと。 その遺跡である多賀城跡と多賀城廃寺跡は、国の特別史跡に指定され、日本三大史跡とも言われているらしい。 土手や石組み、水路などが遺構として残っている。
今日の宿は、仙台にあるいくつかのユースホステルのうち、地理的に仙台の中心に近い仙台おんないユースホステル。 さすがに観光の拠点だけあって、国際色豊かな宿泊客が多い。

(写真8: 塩釜神社) (写真9: 多賀城跡)

8月20日 (月)

仙台観光は見所が多いので大変だが、自転車の機動力を生かしてスイスイと回る。
まずは近場の輪王寺へ。 早朝のためか、静かな禅寺の回遊式庭園には、立派な三重の塔が池に写り、もっとのんびりしたく感じさせる。

大崎八幡神社の本殿は、安土桃山時代そのもの。 極彩色で雅やかな装飾が施されている。 ちなみにこの社殿は、国宝に指定されているとのこと。
広瀬川に架かる橋を、鼻歌混じりに渡ると、有名な青葉城の大手門が見える。 くねくねと青葉城跡まで坂を登っていく。 有名な伊達正宗騎馬像。 高台の城跡地からは、仙台の市街地が良く見える。

定禅寺通りを経由して、伊達家の霊廟である瑞鳳殿へ。 ここに正宗の墓がある。 安土・桃山様式の絢爛豪華な霊廟だが、国宝であった旧廟は戦災で焼失し、現在の本殿拝殿などは、近年再建されたものらしい。 戦争によって、どれほど貴重な文化財が失われてしまったことだろう。

もう夕方近くなってきたので、市立野草園で仙台観光を締めくくり、南へ向かって走る。 阿武隈川の河口に、豊富な鳥が集まることでその名がついた、鳥の海という塩湖がある。 ここにある保養センターに宿泊。
今日は20歳の誕生日。 正々堂々とビールを飲める歳になった。 早速、一人で乾杯する。 この旅を通じて、僕自身、大分大人になってきたなと感じる。

(写真10: 輪王寺) (写真11: 大崎八幡神社) (写真12: 青葉城)

ここまでの走行距離: 計 1502.4 km
今回の走行距離: 計 381.9 km

  • 8/16: 128.9 km (宮古 ⇒ 花巻)
  • 8/17: 55.0 km (花巻 ⇒ 平泉)
  • 8/18: 107.5 km (平泉 ⇒ 鳴瀬 奥松島)
  • 8/19: 41.6 km (奥松島 ⇒ 仙台)
  • 8/20: 48.9 km (仙台 ⇒ 亘理 鳥の海)
(地図13: ここまでのルート概略4)

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